辻製陶所

陶磁器生地の生産量向上と時間短縮で従業員の残業はゼロに

 世界に誇る有田焼や伊万里焼は、陶土を供給する「陶土屋」、成形に必要な型を作る「型屋」、「窯元」、「商社」などによる分業制で成り立っています。当社はその一角を担う「生地屋」です。生地屋は陶磁器の原料となる陶土を成形し、乾燥して仕上げた「生地」を製造して窯元に提供します。この生地に窯元が絵付けなどを施し、商品が完成します。
 当社の生地は陶磁器の町・有田や伊万里を代表する窯元で広く採用されており、技術力と品質ともに高い評価を受けていると自負しています。例えば皆さんの目に触れる機会の多いものでいうと、ヒット商品の「究極のラーメン鉢」は当社が生地を製造しています。



山田健太郎



本事業への取り組みの経緯

 有田焼の故郷・有田町は、国内有数の陶磁器の産地です。料亭や旅館などで使う高級食器を中心に製造してきましたが、1997(平成9)年に約280億円だった販売額は時代の変化とともに減少し続け、2016(平成28)年は68億円弱と、4分の1にまで落ち込みました。売り上げ不振のほか、後継者不足による廃業、従事者の離職、賃金水準の低下などといった理由で、当社も含め産地の窯業は存続の危機にあります。
 かつての活力を取り戻すためには、時代にマッチしたデザインによる差別化、ブランド化により付加価値を向上させることが必要不可欠です。そこで、窯元がいまのニーズに合った製品を開発・量産するにあたり、生地屋である当社も求められる形状で品質良く、必要な数を納期通りに安定して供給するために、高レベルな技術力と生産力の維持が必要と考え、設備の導入を決めました。


実施内容(取り組みの詳細)

  現在主流となっている消費者ニーズの高いデザインは、「薄くて平らな純白のプレート」です。当社で普段使用する天草陶土は、焼成時に変形しやすく、やや青みがかった白色に仕上がります。これは、焼成温度の上昇と共に軟化変形量が大きくなる磁器材料の特性で、製品精度安定化における大きな障害です。このため、天草陶土で先述のようなプレートを作るには、変形を防ぐために窯の温度を厳密に管理したり、二度焼きをしたりする必要があり、手間がかかりました。
 この問題を解決してくれるのが「CA陶土」です。CA陶土は、1220℃で焼結後、焼成温度が150℃以上上昇しても軟化変形量が一定であるというこれまでの磁器にない利点があります。
 当社には、「機械ろくろ」「ローラーマシーン」「圧力鋳込み」という3つの成形設備があり、CA陶土の成形には「圧力鋳込み」を使用します。しかし、通常使用する天草陶土とCA陶土では性質が異なるため、品質維持の観点から設備内部を約3日かけて洗浄しなければなりませんでした。その時間的・労力的負担を解消し、量産するうえでの効率化を図るために、CA陶土専用の圧力鋳込み装置一式を導入しました。




取り組み成果・波及効果

  業界では長年「生地屋が生産のボトルネックになっている」と言われており、需要に供給が追いつかず機会損失が生じることもありました。しかし、今回の事業で生産体制が強化され、生産能力が1.5倍に伸びたことでこの課題が解消。現在は窯元の希望よりも2週間程度早く納品することも可能になりました。
 また、設備を導入したことで、会社全体の生産の流れが良くなりました。売上の増加に伴い、それを原資とした賃上げにより給与総額ベース1.15%アップを達成できました。
 さらに、慢性化していた残業体質も改善され、コロナ禍以降、従業員の残業ゼロを継続しています。その結果、人材の定着率が向上し、技術力、生産力を高いレベルで維持することができるようになりました。




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事業所の魅力をさらに深掘り!

Q:御社について教えてください

A:陶磁器の原料となる陶土を成形した「生地」を販売しています。窯業の業界では「生地屋」と呼ばれています。


Q:御社が大切にしていることは

A:生地屋は供給網の要です。短納期化=付加価値の向上と捉えて、常に効率的な方法を考えて働く「考働」を大事にしています。


Q:アピールしたいことは

A:製品の種類や数量にもよりますが、短納期化(翌々日納品)に力を入れています。


Q:興味をひかれたお客さまにひと言

A:工場見学や試作は随時受け付けています。試作からフィードバックを繰り返し、窯元の皆さまとともに消費者ニーズに合った製品開発を行いますので、お気軽にご相談ください。


今後の展望・活動予定

 今回の設備導入で、今まで以上に多品種小ロット生産への対応が可能になりました。さらに、生産能力の高さと安定供給を掲げて新しい取引先を開拓している最中で、確実に新規取引先が増えています。
 繁忙期と閑散期の波が大きい業界ですから、今後は年間を通した生産の平準化ができるようにレギュラー商品を増やしていきたいと思います。また、製品の仕上がりに作業者による違いが出ないように、製品情報や生産方法の共有化をしていきたいと思っています。
 当業界は従業員の高齢化に加え、次世代を担う若手人材の不足が慢性化しており、それは当社も例外ではありません。この補助金事業をきっかけに設備投資、作業環境の改善、効率化を加速させ、無理なく安心して働ける環境を整えていきたいですね。



INFORMATION




辻製陶所

代表者:古賀 隆

住 所:佐賀県武雄市山内町大字宮野26336-1

連絡先:TEL0954-20-7037/FAX0954-20-7038

U R L :

資本金:

設 立:昭和46年6月

従業員:6人

Saga Monodukuri /窯業・土石製品製造業
令和元年度補正/新商品開発・一般型

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